「出会った頃は本当に優しかったよね。」
と私が意味ありげに言う。
「昔は昔、今は今。」
ニヤリと夫が返す。
いつものパターン、笑ってしまう。
50代で再婚とは自分でも驚いた。夫に至っては独り身の寂しさを感じつつも気楽さを楽しんでいたのではないかと思う。
互いに自立した大人という思いはあった。2人でちょっとした山を登ったり、野山の草花をファインダー越しにどう見つめているのか、彼の視点を想像しながら共に過ごす時間がとても貴重だった。
出会いは私の作るホームページだ。今から20数年前、近所のコンビニオーナーから我が家に電話があった。四姉妹のうち次女と三女がバイトをしていた。そのオーナーからの電話。取り継ぐ次女が
「お母さん、ホームページのアドレスを1人のお客さんに教えてもいいかって聞いてるよ。」
当時、客の1人だった夫がオーナーから立ち話でMacでホームページを作ってる女性がいると聞いたらしい。
当時「Mac使い」というのはちょっとした意味合いがあってホームページを作り始めた人もそれほどいない頃だったので同じくマック党だった夫は興味がそそられたのだろう。
しばらくメールのやり取りを経て近所だということもあり、一緒に野山を歩く仲間にもなった。
長く生きていればそれぞれ傷つき傷つけた若い頃の経験もある。だからこそ喧嘩しながらも弱さを委ね、助け合えるのだと思う。
「ね、初めて会った場所、覚えてる?」と私。
「覚えてない。」案の定、彼の答え。
ほんとかどうか‥本当に覚えてないのだ、きっと。
いいよ、いいよ。
あなたらしくて。